私が会った人々②子供へ
バブルがはじけて、金融不況になる直前のことです。
私は経理担当のS常務にあいました。
その人は社外からきた、ある生保出身の役員でした。
私は、ある顧客に対する株式購入の稟議の根回しに、担当の支店長をともなって
追加投資の依頼に行ったのです。
難題の案件でした。
追加に追加をかさねて、投資してきたいわくつきのあんけんでした。
トップの意向により、なにがなんでもあともどりできない無謀な稟議でした。
融資効率の説明は粉飾に近いものでした。
何代もの役職者が書き重ねてきたものでした。
じっと聞いていたS常務は物静かにいいました。
「部長、いままでの経緯はわかりました。事情もあるでしょう。あなたが
役員会にかけろというなら、そのとおりにしましょう。
でも、あなたに聞きたい。ほんとに会社のためになるでしょうか。」
帰り道、私は支店長に言いました。
「やめよう」。支店長もいいました「この件、私たちの代でやめましょう」
マーケット環境が不利で、苦戦を重ねていた支店長でした。
「部下が、達成不可能なノルマのために車で電柱にぶつかって死にたいというんです。」と相談に来た支店長でした。
二人とも黙って歩きました。
このあと、上司の担当常務や、専務と立ち向かわなければならないことを考えながら。
当社では珍しく、目下に敬語をつかって話したS常務が印象に残りました。
そのとき限りで、会う機会はありませんでした。
ゴーン氏騒ぎで、役員会の機能が問題になっているN自動車のニュースで思い出しました。